お日さまとお月さま
 
幸せな地球さんを見ました 
 


2016年1月11日を表示

lりんのショートストーリーより

http://rin-ohanasi.blog.so-net.ne.jp/2016-01-09

視線上のY [公募]

私の夫は、姉の婚約者だった。
略奪愛と呼ばれる私たちの恋愛は、双方の家族にとっては殺人よりも重罪だ。
激しい非難を受け、理解されぬまま、家族も故郷も捨てた。

夫とふたり、遠くの町でゼロからのスタート。
夫は小さな町工場で働き、私は近くのスーパーで働いた。
生活の何もかもが変わったけれど、ふたりでいれば幸せだった。

あるとき、Yの視線に気づいた。
Yは、近所に住む四十代の主婦で、何かを感じて振り向くと、必ず私を見ている。
ぞくっとした。その目は、私たちを軽蔑して非難した家族の目に似ていた。 
「ご主人とは、どこで知り合ったの?」
ゴミ捨てのついでに行われる井戸端会議で、誰かが私に話しかけた。
「合コンです」と答えた。早く話を切り上げるために用意した答えだ。
「あら、今どきの若い人は、そうよねえ」
数人がクスクス笑う中、またあの視線を感じた。
Yが、こちらを見ている。
唇をゆがめ、蔑むような、憐れむような視線を向けている。
やはりこの人は、私たちのことを知っている。

主婦たちの輪を抜けて、急いで家に帰り、夫の胸にすがった。
「私たちのことを知っている人がいるわ」
「まさか。こんな町で」
「三軒先のYさんよ。あの人、お姉ちゃんの知り合いかしら。怖いわ」
「落ち着いて。僕たち、何も悪いことをしてないよ。出会ったのが遅かっただけだ」
夫が優しく背中を撫でてくれた。少し気持ちが楽になった。

出会いは、姉の婚約パーティだった。
パーティと言っても親族だけのホームパーティで、私は初めて会った彼に、信じられないほどの運命を感じてしまった。彼の方も同じだったらしく、私たちは急激に恋に落ちた。
私たちの関係を知った姉は、大きな目に涙をためて、「どうして?」と繰り返した。
「どうして、どうして」と狂ったように叫び、どんなに視線を外しても、姉の目はどこまでも私を追いかけた。責めるような、蔑むような、憐れむような目だった。

木枯らしが吹き始めた。この町に来て、初めての冬だ。
仕事を終えて帰ると、アパートの前にYが立っていた。
「あら、お帰りなさい」
不審に思いながらも、ぺこりと頭を下げた。
「何か御用ですか」
「これ、ちょっと作りすぎちゃったからおすそわけ。レバーは嫌いかしら?」
タッパーに入った黒い物体。レバーを甘辛く調理したものだとYは言った。
私は、急に吐き気を感じてYを振り払って家に入った。

「待って、奥さん。私、知ってるのよ」
背中にYの声を聞いた。やっぱりYは、私たちのことを知っている。
レバーは夫の好物で、姉がよくこんな料理を作っていた。
家族や姉の目から逃げて、こんな遠くまで来たというのに。
西陽が差し込む狭いキッチンで、私は肩を震わせてしゃがみこんだ。

それから、体調のすぐれない日が続いた。外に出るのが怖い。Yの目が怖い。
Yは密かに姉と連絡を取っているかもしれない。
『あんたなんか、絶対幸せになっちゃいけないのよ』
Yの目と、姉の目が交互に現れる。
『家族にも世間にも背いた人が、平穏に暮らせるはずがないでしょう』
目眩がして、このところ寝てばかりだ。
最初は優しかった夫も、散らかった部屋でうんざりしたようにため息をつく。
「僕だって慣れない仕事でくたくたなんだよ」
苛立ちながら洗濯物を取り込む。ごめんなさい。
こんなはずじゃなかったのに。きっと罰が当たった。
私は暗い部屋で、ただただ泣いていた。

いくらか暖かい午後だった。隣の奥さんが、回覧板を持ってきた。
「顔色悪いわね。大丈夫?」
優しい言葉にも、ただ頷くだけだ。
「そういえば、Yさんに聞いたんだけど……」
ぎくりとした。もう終わりだ。Yはきっと近所中にふれ回った。
私が姉の恋人を奪った恐ろしい女だと。
姉の目が、こんな遠い町まで追いかけてきた。
ふらふらと倒れそうな身体を隣の奥さんが支えてくれた。

「やっぱりあなた、妊娠してるのね」
「妊娠…?」
「Yさんが言ってたの。あの人、子だくさんだから、そういうのわかるのよ。ずいぶん心配してたのよ。貧血じゃないかって」
妊娠……。そういえば思い当たる節がある。
大きく息を吐いて、お腹に手を当ててみた。小さな温もりを感じた。
顔を上げたら、冬の日差しに洗濯物が揺れていた。
三軒先のベランダで、Yさんが優しい瞳で私を見ていた。

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りんさんの ショートストーリーは、
ほっこりして 後味がいいので好きです。

(^.^)



1月11日(月)09:41 | トラックバック(0) | コメント(0) | りんのショートストーリーより | 管理

りんのショートストーリー より

http://rin-ohanasi.blog.so-net.ne.jp/2016-01-06

天使のお年玉 [ファンタジー]

あけましておめでとうございます。

お正月だけど、なんだか暖かいわね。まるで春だわ。
…と思ったら、空から白いものがふわりと落ちてきた。
え?まさか雪?
手のひらにのせても溶けない。
とても甘い匂いがする。おいしそう。
口に入れたら舌の上でほろりと溶けて、何とも言えない上品な甘さが広がった。
「おいしい。もっと食べたい」
上を見たら、羽根のある小さな生き物がしくしく泣いている。

「もしかして天使?なぜ泣いているの?」
「神様からもらったお年玉を落としちゃったんだ」
「どんなお年玉?」
「ふわふわした甘いキャンディだよ。知らない?」
「さ…さあ?知らないわ」
困った。まさか食べちゃったなんて言えない。

「神様に、もうひとつもらえばいいじゃない」
「だめだよ。お年玉はひとり一個だもん」
「神様なのに意外とケチね。お年玉がアメ玉一個なんて」
「ただのキャンディじゃないもん。食べたら願いが叶うキャンディだもん」
「え?そうなの?」
「世界平和を願おうと思ったのに」

正月早々縁起がいいわ。
だって食べた私の願い事が叶うってことでしょ。
世界平和も大切だけど、やっぱり彼氏が欲しいな。
それとも、一生贅沢できるお金にしようか。
ゲットし損ねたブランドの福袋も捨てがたい。
「ねえ天使さん、もしもキャンディを食べたとしたら、どうやって願いを叶えるの?」
「願い事を3回唱えるの。大きな声でね。まさか君、食べたの?」
「ま、まさか。興味本位で聞いただけよ。雪みたいなキャンディなんか知らないわ」
「雪みたいなキャンディなんて言ってないけど。あやしいな」
ヤバい。逃げよう。

「待ってよ。ねえ、本当に食べてない?ぼくのキャンディ」
「知らないってば」
「ねえ、食べたなら世界平和って3回唱えてよ。たのむよ」
「いやよ。だって私、欲しいものがいっぱいあるんだもん」
「やっぱり食べたんだ。ねえ、変なお願いしないでよ。神様に怒られちゃう」
ああ、もうウザい!このちび天使、追い返そう。

「あの、天使さん、私忙しいからもう帰って」
「え?」
「もう帰って」
「え?」
「もう帰って!」
あっ、消えた。さて、じゃあ、願い事を…はっ、しまった。
「帰れ」って3回唱えちゃった!

『やれやれ。人間は欲深いな。あ、そこのあなた。もしも白くてふわふわした雪みたいな甘いキャンディが落ちて来たら、世界平和を願ってね』


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1月11日(月)09:38 | トラックバック(0) | コメント(0) | りんのショートストーリーより | 管理


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