お日さまとお月さま
 
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『患者の合理的選択が標準治療を変えていく』2

がん腫瘤をそっくり残しておいても、膀胱がんは放射線感受性が高いので、十分やっつけられます。逆に、がん腫瘤が削り取られていると、がんの部位だけを狙って精密な放射線治療をしようとしても、膀胱粘膜面が平らになっているので(目標がなく)精密治療が困難ないし不可能になる欠点があります。本書を読んでいる泌尿器科医におかれては、ぜひがん腫瘤を残したままにしてください。

Jさんの話を聞いて、私は少しほっとしました。慶応病院の泌尿器科では、かって全摘術が全盛でしたし、患者から「切り裂きジャック」という仇名をつけられた医者も在籍していました。それで私は、膀胱がんの新患が来たとき、当院の泌尿器科に診てもらう気にはならず、かといって放射線治療をするには泌尿器科医の協力が必要なので、別の病院に患者を紹介していたのです。

それが今回、泌尿器科医が放射線治療を主導したのは、代替わりしたのか、考え方が柔軟になったのか、いずれにしても喜ばしい。時代が動く予兆でしょう。


というのも私は、乳がんの乳房温存療法で似たような経験をしているからです。

かって乳がんは、乳房のみならずその裏側の筋肉まで全摘する「ハルステッド手術」が全盛でした。私が八〇年代に乳房温存療法を唱導しだした頃は、温存療法の全国実施率はほぼゼロだったのです。

それに憤りを感じて私は、「乳ガンは切らずに治る---治癒率は同じなのに、勝手に乳房を切り取るのは、外科医の犯罪行為ではないか」という論文を「文芸春秋」(八八年六月号)に載せたのですが、外科医たちは猛反発。慶応の外科教授も激怒し、私の上司である教授を呼びつけ叱責しました。どうしたことか、それに同調する放射線治療医まで出現し、「近藤先生は医の倫理からはずれているのでは」との声すらありました。

しかし私には確信があった。温存の道があるという情報を得た患者たちが理性的に行動し、やがて日本の乳がん治療を変えていくと。----実際、現在では、ハルステッド手術は廃れ、乳房温存治療が標準治療になっています。

その経験に鑑(かんが)みると、今回のJさんの行動は、膀胱がんで放射線治療が標準治療になる先駆けだと思われるのです。しかし問題は、放射線治療がいつ標準治療になるのか、です。十年なのか、それとも五十年かかるのか。それはひとえに、膀胱温存を求める患者たちが、どこまで理性的かつ主体的に行動できるかにかかっているでしょう。



12月10日(火)07:20 | トラックバック(0) | コメント(0) | 自然 | 管理

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