後書き3 |
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| 私は研修医になったとき、がんは積極的に治療するのが当然と思っていました。助手になり講師と
なったときも、積極的に治療をしており、たとえば乳がん患者に、日本中のどの病院よりも強力な(
欧米でスタンダードとなっていた)抗がん剤治療を実施していた時期があります。
ところが抗がん剤治療をしてみると、どうもおかしい。患者は毒性で苦しみ、あろうことか、はっ
きり命を縮めてしまった患者も数人経験したのです。それで抗がん剤治療に対する疑問が生じ、あ
らためて臨床データ論文を読み込み分析し、がんの本質・性質まで遡って治療の理論を考えました
。それが結実したのが『抗がん剤は効かない』(文芸春秋刊)です。
他方、手術、放射線、がん早期発見等についても、実際の診療経験から多々疑問が生じ、それで臨
床データ論文を読み込み、理論を再構築する作業を続けたわけです。そこで一貫していたのは、ど
のようにしたら患者が苦しまず、最も長生きできるだろうかという視点です。その観点にもとづき
、無理や矛盾のない診療方針を考え抜いた結果が、がん放置療法なのです。世界で最も新しい治療
法ないし考え方であるとともに、最善の対処法であると確信しています。
最後に、自分が在籍してきた慶応義塾に感謝します。臓器切除を主軸としたがん治療を推進してい
る大学病院の真中で、医者世界の通念に真っ向敵対する温存療法や放置療法の実施が可能だったの
は、ある意味奇跡的なことであるはずです。その上、患者の再診時にはほとんど検査をしないので
、病院収入は一人当たり七百円にしかならない。そんな診療行為を許してくれたのも、義塾のどこ
かに自由や自尊の精神が残っているからではなかったかと考えています。
患者たちにも声をかけたい。将来、温存療法や放置療法の恩恵を受けるであろう日本中の患者・家
族になりかわり、困難な道を歩んで先達となってくれたことに感謝したいと思うのです。
そして何よりも、この日を迎えることなく旅立たれた方々に弔意と感謝を捧げたい。 あなた方の幾人かは、私の短慮から、命を縮めてしまった。亡き人に許しを請うのは不可能です。
ただ、あなた方が経験した悲痛が、そしてあなた方のことを思い出すたびにあふれる涙が、本書を
生み出す原動力だったことを伝えたいと思うのです。 ―――――ありがとう。そして今一度、さようなら。 二〇一二年二月 近藤誠
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12月8日(日)14:23 | トラックバック(0) | コメント(0) | 自然 | 管理
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