水を求めて [SF] |
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わたしたちウォーター族は、水がないと生きていけません。 皮膚が渇くと、干からびて死んでしまうのです。 わたしたちは、水の惑星で暮らしていました。 小さな星には、シンボルとなる「永遠の泉」があり、そこから絶え間なく湧き出る水が、わたしたちの体を常に潤していました。
ところが突然異変が起こり、泉は永遠ではなくなりました。 水の量が徐々に減り、ついには底が見えるほどになりました。 仲間はたくさん死にました。このままでは、絶滅してしまいます。
優れた技術者が、なんとか生き残れる方法を考えました。 それは、水に入ると体が小さくなるという薬です。 その薬を飲んだわたしたちは、少ない水でも生きられるようになったのです。 それでも水がすっかり枯れたら終わりです。 時間はありません。 生き残ったわたしたちは、わずかな水を容器に詰めて、新しい星を探す旅に出たのです。
水が豊富な星を見つけました。 地球という大きな星です。 たくさんの生物が暮らしています。 わたしたちはさっそく、水を求めてさまよいました。
「うみ」という巨大な水がありました。 しかしそれはしょっぱくて、わたしたちの体質に合いません。 「かわ」は流れが早くて危険です。 「みずうみ」は、しょっぱくなくて流れも穏やかだと聞き、そこへ行くことにしました。 ところが長旅の疲れと、持ってきた水が濁ってきたことによる体調不良で、みんな動くことができません。
あたりはもう真っ暗で、右も左もわかりません。 こんなところで死にたくありません。 「水の匂いがする」 仲間が言いました。 フェンスに囲まれた四角い堀の中に、たっぷりの水がありました。 「ぷーる」と呼ばれるものです。
わたしたちは、フェンスをよじ登り、ふらふらになりながら水の中に飛び込みました。 「ああ、生き返った」 薬によって体が小さくなったわたしたちにとって、「ぷーる」はとても広くて快適でした。 わたしたちは、「ぷーる」の中にぷかぷか浮きながら、空を見上げました。 なんてきれいな空でしょう。 たくさんの星がまたたき、ゆるやかな風が吹いています。 ずっとここにいたいと思いながら、わたしたちは久しぶりにゆっくり眠りました。
翌朝目覚めると、おおぜいの地球人が「ぷーる」のまわりを囲んでいます。 ああ、わたしたちは侵略者として、捕まってしまうのでしょうか。 しかし、地球人たちはなぜかとても楽しそうです。
「どうして学校のプールに金魚がいるんだ?」 「すげえ、おれ、金魚すくいやりたい」 「あたし、おうちで飼うわ」
どうやら、薬を飲んで小さくなったわたしたちは、「きんぎょ」という生物に似ているようです。 地球人たちはわたしたちを、きゃあきゃあ言いながらつかまえました。 子供のようですが、なかなかに狂暴です。 元の姿に戻るのは危険だと、誰もが思いました。
そしてわたしは今、地球人の家の中にいます。 きれいな水槽に入れられて、水草たちと一緒に静かに暮らしています。 「キンちゃん」なんて名前で呼ばれています。 水から出ない限り、元の姿に戻ることはありません。 わたしは「きんぎょ」ではないけれど、「きんぎょ」として生きるのもいいと思い始めています。 だってここにいれば、死んでしまう心配はありませんもの。
ところで、わたしの仲間、あなたのおうちにいないかしら?
うちの金魚たち。ま、まさか!
http://rin-ohanasi.blog.so-net.ne.jp/2016-07-25
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Jul.26(Tue)10:30 | Trackback(0) | Comment(0) | りんのショートストーリーより | Admin
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