りんのショートストーリー |
|
| ミス白雪姫 [名作パロディー]
白雪学園高等部では、毎年恒例の『ミス白雪姫コンテスト』を迎えようとしている。 目下2連覇の白雪姫子は、3年生の生徒会長。 美人で頭がよく、しかも理事長の孫娘であった。 「今年もわたくしがミスの座を射止めますわ」
姫子は鏡を見ながらいつも問いかける。 「この学園で、いちばん美しいのは誰かしら?」 「はい、もちろん姫子さんです」 鏡が答えるわけはなく、取り巻きの生徒会役員が代わりに答えるのである。
そんなある日、姫子が廊下を歩いていると、 「小雪ちゃん、めっちゃ可愛いよな」 「見つめられただけでメロメロだよ」 と話す男子学生に遭遇した。 「ちょっとあなたたち、小雪って誰ですの?」 「1-Eに編入してきた白浜小雪だよ。色が白くて目が大きくて、唇がふっくらで超カワイイ!」 これはうかうかしていられないと、姫子は1-Eの教室に向かった。
「ちょっと、白浜小雪さんってどなたかしら」 ざわめく教室で、ひときわ輝く美少女が立ち上がった。 「生徒会長どの。拙者が白浜小雪でござる。以後お見知りおきを」 小雪は、時代劇で日本語を学んでいる帰国子女であった。 「変わった方ね。まあいいわ。あなた、ミス白雪姫コンテストに出場する気はあって?」 「何でっか?白雪姫コンテストゆうのは」 小雪は、上方落語でも日本語を学んでいた。 「学園一の美女を決めるコンテストですわ」 「そんなもん出るかいな。興味あらへんわ」 「あらそう」 「だいたい女性をランク付けするなんざ、許せねえ。たとえお天道様が許しても、この白浜小雪が許さねえ」 「つくづく変わったお方」
姫子が背を向けると、クラス中の女子が呼び止めた。 「生徒会長、小雪ちゃんの言うことはもっともです。どうして女性だけをランク付けするんですか?」 「それなら男子もやりましょうよ。ミスタープリンスコンテストなんてどうですか?」 「あ、それいい。ミス白雪姫とミスタープリンスはカップルになって壇上でキスするの」 「キャー、それ素敵。やりましょう、生徒会長」
ミスタープリンス? 姫子は考えた。ミスタープリンスといえば、間違いなく2-Aの王子君だ。 王子君と壇上でキス?胸キュンの少女漫画みたいだ。 「やりましょう」
ということで、今年はミス白雪姫とミスタープリンスコンテストが行われることになった。 姫子は立候補。小雪は多くの推薦を受けて出場することになった。 「本場ベルギーのチョコレートよ。さあ召し上がれ。これを食べた方は、白雪姫子に投票なさってね」 姫子が着々と根回しをする中、小雪は何もしなかった。 相変わらず時代劇と上方落語で日本語を学ぶ毎日であった。
コンテスト当日、思った以上に小雪が優勢であることを知った姫子は、取り巻きたちに命令して、小雪を初等部の体育倉庫に閉じ込めた。 会場にいなければ棄権とみなされるからだ。 「てめえら、こんなことしてただで済むと思うなよ。叩き切ってやる!」 どんなに叫んでも、外から鍵をかけられて開けることが出来ない。
一方、ミスタープリンス間違いなしの王子君は、日課であるジョギングをしていた。 彼はサッカー部のエースなので、日々体を鍛えているのである。 初等部の前を走っていると、7人の小学生が体育倉庫の前で困っていた。 「君たちどうしたんだい?」 「あのね、この倉庫の中に誰かいるみたいなの。だけど鍵がなくて開けられないの」 「職員室にも鍵がないんだ。だからね、僕たち石で鍵を壊そうとしていたの」 「ふーん。南京錠か。よし、おにいさんが壊してあげよう。子供じゃ無理だよ」 王子君は大きな石を振り下ろして鍵を壊した。 中には、泣き疲れた小雪がマットの上で寝ていた。 「お姫様みたい」「めっちゃきれいな人」 「この人、1年の白浜さんだ。たしかコンテストに出ていたな」 王子君はようやく、コンテストのことを思い出した。そうだ、俺も出ていたんだ。
コンテスト会場では、投票が終わり、発表が始まった。 「ミスタープリンスは、圧倒的な得票数で、2-Aの王子君です」 「すみません。王子君はトレーニング中です。もうすぐきます」 姫子が「もう少し待ってあげて」と言ったものだから、しばらく中断となった。
「遅くなりました」 爽やかな笑顔で王子君が走ってきた。 その後ろにぴったりと寄り添う白浜小雪。手までつないでいる。 「あ、ちょうどよかった。改めて発表します。ミスタープリンスの王子君、そして、ミス白雪姫の小雪ちゃんです」 拍手喝采で迎えられたふたりに、姫子の怒りはマックスになった。 「何よ、遅れてきたくせに。無効だわ」 手を振りあげた瞬間、体育倉庫の鍵が落ちた。 すべての悪事がばれた姫子は、祖父である理事長に、こっぴどく叱られることになる。
「さあ、ミスとミスター、壇上でキスを」 「あっ、おれ、もうしちゃった」 「え?」 「寝顔があまりにも可愛かったから」 まさに王子様のキスで目覚めた白雪姫だ。
「白浜小雪さん、ひとことお願いします」 「ごっつあんです」 相撲でも日本語を学んでいる小雪であった。
http://rin-ohanasi.blog.so-net.ne.jp/2016-06-28
| |
|
Jun.30(Thu)04:55 | Trackback(0) | Comment(0) | りんのショートストーリーより | Admin
|