お日さまとお月さま
 
幸せな地球さんを見ました 
 


早起きは三文の徳

リンのショートストーリーより



「ひろき、散歩に行くぞ」
じいちゃんに無理やり起こされた。
「なんだよ、まだ5時半じゃないか」
「早起きは三文の徳っていうじゃないか」
「なんだよ、それ。昔のお金?いくらだよ」
「わしも知らん」

半分寝ぼけながら、じいちゃんについていく。
じいちゃんは昼寝が出来るからいいけど、僕は中学生だぞ。
授業中に居眠りしたらどうするんだよ。

まだ早朝なのに、歩いている人は意外と多い。
「おはよう、あら、若いのに早起きでえらいわね」
大概の人が笑顔で僕に声をかけていく。
「ほらね、ひろき、いいことあるだろう?」
「別に、得した気はしないよ」
「早起きすると、ご飯がおいしいぞ」
「僕はいつ食べたっておいしいよ」

走っている人もいる。
「朝からあんなに汗かいて嫌じゃないのかな」
「わしも昔はよく走ったさ。今じゃ足腰が弱ってかなわん」
「いや、じいちゃん、僕を叩き起こすくらいだからまだ元気だよ」
「ははは、ひろきと歩くのも久しぶりだな」
「まあ、たまには付き合ってやるよ」

じいちゃんの散歩コースを一周して家に帰ると、お母さんが朝ご飯を作っていた。
「あら、ひろき早起きね」
「じいちゃんに無理やり起こされた」
「あらあら、毎朝じいちゃんに起こしてもらおうかしら」
お母さんは笑いながらおかずを並べた。

「あれ?じいちゃんは?」
「ソファーで寝てるわ」
「なんだよ。まったく人を突き合わせておいて二度寝かよ」
「いいじゃないの。早起きは三文の徳よ」
「だから、それいくらだよ」
「ふふ、文句言いながら、もう3杯目よ」
「まあ、たしかにご飯はうまいな」

学校へ行くと、憧れの美咲ちゃんが話しかけてきた。
「ねえ、ひろき君、今朝歩いてたでしょう」
「え?どこかで会った?」
「うちの前を通ったのよ。ずいぶん早起きなのね」
「あ、そうなんだ」
「ねえひろき君、今度うちに遊びに来ない?」
うわ!すごい展開。やっぱりいいことあった。三文の徳ってやつ?

僕はじいちゃんに報告したくて、帰宅後いきおいよくドアを開けた。
「ただいま!」
リビングでお母さんが、目を真っ赤にして泣いていた。
見るとソファーで、じいちゃんが静かに息絶えていた。
「買い物から帰ったら冷たくなっていたの。寿命だったのよ」
僕は力が抜けて座りこんだ。
「きっと最後にひろきとお散歩したかったのね」
お母さんはそう言って涙を拭った。

ゴールデンレトリバーのGちゃんは、僕が生まれたときにはすでに家にいた。
だからずいぶんと年寄だ。
兄弟みたいに育ったから心が通じ合っていると思っていたけど、僕はGちゃんの寿命に気づかなかった。
ごめんね、Gちゃん。

Gちゃんに教えたかったな。
憧れの美咲ちゃんがすごい犬好きで、今度、飼ってるヨークシャテリアを見せてくれるんだ。
Gちゃんも一緒に行きたかったね。

僕は、Gちゃんのきれいな毛並みをそっと撫でた。

http://rin-ohanasi.blog.so-net.ne.jp/2016-06-21



6月25日(土)08:24 | トラックバック(0) | コメント(0) | りんのショートストーリーより | 管理

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