りんのショートストーリーより |
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| 12月の結婚
どうも、カレンダーです。 残すところ、あと3枚になりました。 スリムになって嬉しいですが、あと3ケ月でお払い箱だと思うと、やはり寂しさを隠せません。
ところで私は、日付の下にスペースがある、いわゆる書き込み式です。 持ち主の女性A子さんは、1月1日に私をリビングにかざってくれました。 そして書き込みました。
『12月23日/結婚』
12月23日は天皇誕生日ですが、A子さんの誕生日でもあります。 30歳の誕生日。 この日までに結婚したいという願望でしょうか。
しかしA子さんに彼氏の影は微塵もありません。 毎日判を押したように同じ生活です。 朝7時50分に家を出て仕事に行き、夕方6時半に帰ってきます。 帰ってからは、録画した海外ドラマを見て過ごします。 もう10月なのに、デートのひとつもしていません。 12月の結婚は……はっきり言って無理じゃね?
A子さんに、焦る様子はまるでありません。 せめて合コンの予定くらい入れましょうよ。 そうこうしているうちに、ハロウィンも終わりです。 仮装パーティーもなしです。 そろそろ婚活でもしたらどうですか? 12月の結婚は……本当に無理じゃね?
11月になっても、A子さんの生活は変わりません。 真面目に仕事をして、まっすぐ家に帰り、土日もデートしている様子はありません。 相変わらず海外ドラマ漬けの日々です。 最近は、それに加えて英会話の勉強を始めました。 結婚よりもスキルを上げて、キャリアウーマンを目指すことにしたのでしょうか。 それとも海外ドラマ好きが高じて、旅行にでも行くのでしょうか。 いずれにしても、12月の結婚は……完全に無理じゃね?
いよいよ12月になりました。 私もついに残り1枚です。 A子さんは、小さなクリスマスツリーを飾りました。 最近は英会話に加え、料理の本を読んでいます。 まだ諦めていないのでしょうか。しぶとい人ですね。 しつこいようですが再び言います。12月の結婚は無理じゃね?
12月23日がやってきました。 A子さんは、ちょっとだけおしゃれをしていますが、出かける様子はありません。 誕生日くらい、せめておしゃれをしたい女心は、わからないではありません。 私が人間の女子だったら、女子会を開いて差し上げますのに。 「大丈夫だよぉ。30歳なんて若いよぉ。急いで結婚することないよぉ」 と慰めて差し上げるのに。 ああそれよりも、私が人間の男子だったら、迷わずあなたを選びます。
夕方、突然ひとりの男が訪ねてきました。 バラの花束とケーキを抱えています。 A子さんは、笑顔で彼を迎えました。 「待っていてくれたんだね」 「あんなに熱烈な年賀状をもらったのは初めてよ」 だ…誰ですか?
彼は、A子さんが10年前に別れた彼でした。 ふたりは同じ大学で、とても素敵な恋をしていましたが、彼が研究のためにアメリカに渡ることになりました。 彼について行くには、A子さんは若すぎました。 彼もまた、A子さんを縛ることは出来ずに別れを決意しました。 彼は、アメリカに旅立つときにA子さんに言いました。 「30歳を過ぎても、お互いにひとりだったら、そのときは結婚しよう」
もちろんA子さんは、その言葉を鵜呑みにしたわけではありません。 だけど心のどこかで待っていたのです。だからA子さんは、学生時代からずっと同じアパートに住んでいます。 そこへ今年の元旦、アメリカから年賀状が届いたのです。 『この住所にはがきが届くということは、きみはまだひとりでいるということかな』 そんなふうに始まったはがきには、熱烈な想いが綴ってありました。 彼もまた、A子さんを忘れられずにいたのです。 「誕生日に逢いに行く」という言葉は、すなわちプロポーズです。 A子さんは、すぐさま私をめくり、12月に『結婚』の文字を書き込んだのでした。
ふたりは、楽しいクリスマスを過ごし、互いの親に挨拶をしました。 A子さんはもうすぐアメリカへと旅立ちます。 残念ですが、私はA子さんの幸せを見届けることは出来ません。 最後にひとこと、言わせてください。 よかったじゃん。幸せになれよ!
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Oct.27(Thu)08:36 | Trackback(0) | Comment(0) | りんのショートストーリーより | Admin
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