お日さまとお月さま
 
幸せな地球さんを見ました 
 


りんのショートストーリー

http://rin-ohanasi.blog.so-net.ne.jp/2015-04-01?comment_success=2015-04-02T06:18:13&time=1427923093

大きな穴 [ファンタジー]

それはまだ肌寒い早春の朝だった。
町の公園の真ん中に、突然大きな穴があいた。
人が百人入れそうな大きな穴だ。
地盤沈下は考えられず、まるで誰かが掘ったような穴だった。
前日の22時には、何もなかったことが証明されている。
つまりたった数時間で、こんな巨大な穴があいてしまったことになる。

町中が大騒ぎ。
聞きつけたマスコミまでもやってきて、まるで祭りのような人出だ。
「隕石が落ちたのではないか」という説が出た。
「いや、それではその隕石はどこに行ったんです?ゴムまりのように跳ねて宇宙に戻ったとでも?」
「これは人間の仕業ではない。何か不吉なことが起こる暗示だ」
オカルトめいた発言が日本中を怯えさせた。

探検隊が現れて、穴の中に入ってみるという特別番組も作られた。
結局何事もなく、「ただの穴です」と締めくくった。

とりあえず、危ないから穴を埋めようと誰かが言うと、
「せっかくこんなに賑わっているのに、埋めたら元の寂びれた町に逆戻りだ」
と、商店街の人々が烈火のごとく反対した。
「公園で遊べないじゃないか」「散歩が出来ない」
「どうせ何もない公園だ」「利用しているのはノラ猫くらいだろう」
喧々囂々の大騒ぎがしばらく続いたが、2週間も過ぎた頃には報道陣も見物人も姿を消した。

そして、すっかり春めいた朝、穴があいていたところに、大きな大きな木が茂っていた。
「いったいどういうことだ?」
「こんな大きな木が突然生えるはずがない」
「誰かが植えたのか?」
「一晩でこんな大きな木を?」

青々と繁った木を囲んで、みんなが首を傾げていると、ひとりの老婆が笑顔で言った。
「あら、ちょうどいい日陰が出来たわ。暑い夏もここで凌げるわね」
人々は顔を見合わせた。
「そうだな。ここにベンチを置こう」
「枝に縄をくくってブランコを作ろう」
「わーい」
人々は、巨大な幹を囲んで、まぶしそうに緑の葉を見上げた。

『どうだ。21世紀植樹計画は進んでいるか?』
『神様、それがですね、人間ときたら穴を掘っただけで大騒ぎ。ようやく木を植えたらまた大騒ぎ。なかなか進みませんよ』
『しかし見てみろ。木を囲んで、みんな幸せそうだ』
『本当ですね。では2本目をさっそく植えましょう』

明日の朝、あなたの町に大きな穴があいていたら、騒がずそっと見守りましょう。



Apr.2(Thu)06:24 | Trackback(0) | Comment(0) | りんのショートストーリーより | Admin

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