りんのショートストーリー |
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命の神様 [ファンタジー]
http://rin-ohanasi.blog.so-net.ne.jp/2015-04-09
たくさんの蝋燭に炎が揺れている。 それらを見守るように、命の神様が立っていた。 そこにひとりの男がやってきた。
「神様、お願いです。僕の寿命を延ばしてください」 「いきなり何だ!ここは生きてる人間が来るところじゃないぞ」
「実は3年前に亡くなった母が、枕元に現れて言ったんです。僕は10日後に死ぬと。みすみすおまえを死なせたくないと、母は言いました。命の神様のところに行って、寿命を延ばしてもらうようにお願いしなさい、と。それで、母がここに連れてきてくれました」
男は自分の蝋燭を探した。それは儚い炎で、今にも消えそうだった。
「神様、僕はまだ35歳です。結婚もしてないし、もっともっと生きたいです」 「 うーん。そうは言っても決まり事だ。ひとりだけ特別扱いは出来ない。…とはいえ、その親心にはいたく感銘した。どうだろう。条件付きというのは」
「どんな条件ですか?何でもします」 「おまえの寿命が尽きる10日間、良いことをしなさい。人に感謝されなさい。ひとつ良いことをするごとに、寿命を1年延ばそう」
神様はそう言って、ふうっと袖を振った。
男はがばっと飛び起きた。 「何だ。夢か?」 しかし枕元に母が大切にしていた紫色の数珠が置いてあり、男は夢ではないと確信した。
男は翌日から、さっそく良いことをした。
駅の階段でおばあさんの荷物を持ってあげたり、子供たちが無事に横断歩道を渡れるように指導をしたり、同僚の代わりに残業をした。後輩のミスをかばって土下座をした。 休日は進んでゴミ拾いをしたり、困ったお年寄りの手伝いなどをした。
『良いことノート』には、たくさんの良いことが並んだ。 9日が過ぎた頃には、30もの良いことをしていた。つまり、寿命が30年延びたことになる。 男の評判はうなぎのぼり。 いい青年だと町の人から感謝され、後輩からは慕われ、上司からも高評価だ。
そしていよいよ10日め、男は「よし、今日もいいことをして1年でも長く生きられるようにしよう」と、活き活きとして出かけた。 登校中の学生の落し物を一緒に探してあげた。 給料前で金のない後輩に昼ご飯をご馳走した。 そして、結婚記念日だから早く帰りたいという上司のかわりに、残業をかってでた。 遅くまで仕事をして会社を出たのは23時だった。
もう少しで最初の寿命だった10日が終わる。
そのときだった。 「キャー」という叫び声が聞こえた。 男が駆けつけると。若い女性が数人のヤンキーに絡まれている。 「やめてください」「いいから、おれたちとあそぼーよ」 女性が男に気付き、助けを求めた。 男は「やめないか。嫌がってるだろう」とヤンキーたちに言った。 たちまち顔面にパンチが飛んできた。 「カッコつけてんじゃねえよ。おっさん」 男は果敢にもヤンキーに向かって行った。
ヤンキーたちはへらへらと笑いながらかわしていたが、がむしゃらに振った手がヤンキーの顎に当たったとき、彼らの顔色が変わった。 ヤンキーは怒ってナイフを取り出して、あっという間に男を刺した。 「え?嘘だろう…」
ドクドクと流れる血を見て、ヤンキーたちは逃げ出し、男は路上に倒れた。 「あれ?なんで?おれ死ぬの?」
「よし、予定通りだ」 命の神様はそう言って消えた蝋燭をかたずけた。
「ちょっとぉ、神様、約束が違いますよ。どうして僕死んでるんですか」 男が白い着物で現れ、苦情を言ってきた。
「あ、そうだ。言い忘れておった。あのね、蝋燭は変えられないから、一回死んでもらわないといかんのだ。そのうえで、新しい蝋燭に差し替える、というわけだ」 そして神様は、穏やかに笑いながら新しい蝋燭に火をつけた。
男は病院で目覚めた。生死の間をさまよって生還した。(実際に一度心臓が止まった) たくさんの人が見舞いに来た。良い人になった男はすっかり人気者だ。 その中に、あのときヤンキーから助けた女性がいた。 彼女はやがて男の妻となる。
寿命の他に、伴侶まで手に入れたか。 命の神様は微笑みながら、赤々と燃える炎を見つめた。
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Apr.15(Wed)07:07 | Trackback(0) | Comment(0) | りんのショートストーリーより | Admin
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