つるのしかえし |
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| 「もう洋服を買うのはやめるわ。それよりお腹がすいた」
辺りはすっかり暗くなってきた。 私はふらふらと歩きながら、いつの間にか川沿いの土手に来ていた。
「ああ、生魚食いてえ」
「だめですよ、鶴さん。今は人間なんだから」
「ああ、虫食いてえ」
「しっかりしてくださいよ。鶴さん」
私は空腹に耐えられず、そばにあった柳の木にもたれかかった。 その時近くを歩いていたカップルが、私を見て「ギャ~」と叫び走って行った。
「なんなの、いったい?」
「お化け…。そうだ、あの人達、鶴さんをお化けだと思ったんですよ」
「なにを失礼な」
「いや、鶴さん、これは使えますよ。いいこと考えました」
「なに?」
「僕らの仲間をひどいめに合わせたやつを、脅かすんですよ。やつらはもうじきあの湖にやってきます。そこを待ち伏せして、今みたいに脅かせばいいんですよ」
私たちは湖にやってきた。鴨や白鳥が静かに水面に浮いている。 こんなにおとなしい鳥たちを苛めるなんて許せない。 だけど私は、そんな正義感よりも、空腹感を我慢できずにいた。
「ああ、生魚食いてえ…」
呟くと、湖で魚がぴょんと跳ねるのが見えた。
「もう我慢できない」
私はなりふり構わず湖に入り、魚を捕まえた。
「あ、鶴さん、やつらが来ましたよ。バットとかエアガンとか持ってますよ。やばいよ。今日もやられちゃうよ。鶴さん、あれ?鶴さん、どこですか~?」
私は夢中で魚を捕っていた。 そして捕まえた。…とその時、懐中電灯の灯りが私を照らした。
「何やってるんだ?お前」
振り返った私の口には、生々しい魚がバタバタと最後の抵抗をしていた。 髪はみだれ、血走った目が男たちをにらみつけた。
「うぎゃ~」
男たちは、しりもちをつきながら、必死で逃げていった。 私は、逃げる男たちの背中に向かって 「二度と鳥を苛めるな!」と叫んだ。
「鶴さん、さすがです」
鳥たちは集まってきて、私を讃えた。やっぱり私は日本一ね。 すると、湖の方からも拍手が聞こえた。 振り返ると、魚たちがいっせいに顔を出していた。
「鶴さん、お見事でした。実は私たち魚も、人間にひどい目に合わされているんですよ。鶴さん、どうか我々のかたきも取ってください」
鳥も魚も入り乱れての拍手喝采を浴びて、悪い気はしない。 だけど、湖に映った私の姿は、気高く優雅な鶴とはまるで違っていた。
「みんなの幸せのためなら、まあいいか」
私は、口にくわえた魚を、そっと湖に返した。
***********おわり
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3月1日(土)05:30 | トラックバック(0) | コメント(0) | レジャー・旅行 | 管理
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