お日さまとお月さま
 
幸せな地球さんを見ました 
 


りんのショートストーリーより

間引き [ファンタジー]

おじいさんが大根の間引きをしていた。
「すまねえなあ。間引きをしねえと大根が大きくならねえだ。べつにおめえらが出来そこないっていう訳じゃねえぞ。まあ、運が悪いと思って諦めてくれ」
おじいさんは、そう言いながら大根の葉を抜いていった。

すると突然声が聞こえた。
「はい、本当に運が悪いです。ここでも間引きされちゃうなんて…」

見ると、抜いた大根の葉がしゃべっていた。
「実は私は、ずっと前の人生で人間でした。8人兄弟の5番目です。貧しい時代でしたから、私は売られました。間引きされたのです。そしてそのあとはネズミになりました。ネズミはたくさん子供を産みますが、弱い子は見捨ててしまうのです。
私はそこでも間引きされました。育ててもらえなかったのです。

もう動物はいやだ、次は植物がいいと思いました。そうしたら大根に生まれ変わったのです。
しかし同じです。やっぱり間引きされました。運命だから仕方ありません」
大根の葉は、悲しそうに言った。

「ありゃあ、これはすまんことをした。そうと知っていたら抜かなかったのに」
「いいんですよ。せめて美味しく食べてくださいな」
そう言って、大根の葉は息絶えた。
おじいさんは、その葉っぱを味噌汁にして、美味しく食べた。せめてもの供養だ。

大根の葉は生まれ変わった。
次はまた人間になった。
普通の家庭で育ち、間引きされることもなく普通のサラリーマンになり、人並みに結婚もした。
大手企業の人事部で働く彼は、社員のリストラに頭を悩ませていた。
「マビキ君、誰をリストラするか早く決めてくれ」
上司にせかされても、彼には出来なかった。
「誰かを間引きするなんて、私には無理だ」

結局彼は、自分が辞めた。
心優しい彼は、自分を間引きしたのである。

妻は彼を責めなかった。
「あなたには、サラリーマンは向いていないわ。私の田舎に帰って農業をしない?」
「農業?」
「そう。大根を作るのよ」
「大根?無理だよ。僕には間引きはできない」
「いいえ、間引きはしなくていいのよ」
「大根なのに?」
「そう。私のひいおじいちゃんがね、間引きをしなくてもいい栽培方法を考えたのよ」
「ひいおじいちゃんが?」
「ええ。ある日突然、間引きをされた葉っぱが可哀想になったんだって」

彼は妻の田舎で暮らすことになった。
「君のひいおじいさんは優しい人だったんだね」
「ええそうよ。とても優しい人よ」
「会ったことあるの?」
「いいえ、ないけどわかるわ。だって私、ひいおじいちゃんの生まれ変わりだもん」
「え?」
遠い昔に感じた懐かしい土の匂い。妻の手の温もりが、あの日の老人と重なる。
ああ、こういう運命もあるんだな。彼は穏やかな人生にしみじみ感謝した。
次に生まれ変われるなら、また人間がいいな。



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2月27日(木)05:24 | トラックバック(0) | コメント(0) | レジャー・旅行 | 管理

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