りんのショートストーリー |
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お墓は今日も雨だった [コメディー]
http://rin-ohanasi.blog.so-net.ne.jp/2015-03-20
洋子さん、お彼岸だから会いに来たよ。
やっぱり雨だね。朝は晴れてたのに、降って来ちゃったね。 洋子さんの墓参りはいつも雨よ。
しかたないよ。洋子さん、究極の雨女だもんね。
知ってる?洋子さんの命日は、毎年雨なのよ。 お通夜もお葬式も雨だったでしょ。
初めて逢った日も雨だったね。
美術館の出口で、私が間違って洋子さんの傘を持ってっちゃって。 洋子さん、慌てて追いかけてきたわね。
それで私たち、話すようになって、お互い連れ合いを亡くして境遇が似てたんだよね。 すっかり仲良しになったわ。この年で親友が出来るなんて思ってなかったわよ。
初めて家に遊びに行った時も雨だったね。 私、降りる駅を間違えて、結局車で迎えに来てもらったね。
そうそう、初めて旅行に行った時も雨だった。 私、時間を間違えて、洋子さんを1時間も待たせちゃったね。
カラオケに行った時も雨だったね。
私トイレに行って戻ったら、洋子さんが、きゃりーぱみゅぱみゅ歌ってて唖然としたわ。 そしたら部屋が間違ってたのよ。ホント、笑っちゃう。
洋子さんが入院した日も雨だったね。
お見舞いにいったら私、病室間違えちゃって、空っぽのベッド見て号泣したわ。 洋子さんに「どうしたの?」って声かけられたとき、本当に幽霊だと思ったのよ。
あら、私って何だか間違えてばかりね。
白状するとね、洋子さんのお葬式の時も、会場間違えたの。 知らないおじいさんにお焼香するところだったわ。
こんな間抜けな私でも、洋子さんは呆れずに付き合ってくれたね。 最後まで優しかったわ。ありがとう。
あら、少し小降りになってきたわ。 じゃあ、そろそろ行くわね。また来るからね。
どっこいしょ。
ん?あれ?
あらやだ。お墓間違えちゃった~。
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Mar.23(Mon)05:54 | Trackback(0) | Comment(0) | りんのショートストーリーより | Admin
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ブーケの行方 [男と女ストーリー]
冬の空は雲ひとつなく澄み切っていた。 明子が投げたブーケは、群がる女性たちの手をすり抜けて、僕の腕の中にすっぽり収まった。 たちまち女性たちのブーイング。 「なんで男のおまえが取るんだよ」って。 僕はブーケを空にかざして「次に結婚するのは俺だ」と笑った。 明子は、思い切り呆れた顔をした。
二次会は辞退した。 でもそのまま帰りたくなかったので、女友達のルミを呼び出して一緒に飲むことにした。
「なにそれ」 僕が持っているブーケを見て、ルミは怪訝な顔をした。 「ブーケトスだよ。俺がキャッチした」 「はあ?バカじゃないの」 「うん。女性陣から非難ごうごう」 「当り前よ。ホントにバカじゃないの」
〝バカじゃないの″は、ルミの口癖だ。 「だいたいさ、元カノの結婚式に行くなんて、ホントにバカじゃないの」 「仕方ないだろう。新郎が友達なんだから」 「その友達に彼女取られて、よく祝福できるよね。バカじゃないの」 ルミはてきぱきと空いた皿を重ねたり、おしぼりでテーブルを拭いたりする。 僕のジョッキが空になる前に、さりげなくおかわりを注文する。
「でもさ、不思議と平気だったんだ」 「何が?」 「明子の花嫁姿見ても、誓いのキス見ても、意外と平気だった」 「ふうん」 「だけどやっぱりちょっと悔しくて、それでも花嫁を奪って逃げる度胸はなくて…」 「それで、せめてブーケだけでも奪ったの?」 「そういうこと」 「バカじゃないの」
ルミは要領よくサラダを取り分け、僕の好物を注文する。 「ちゃんと食べないと悪酔いするよ」 醤油が欲しいと思ったらさっと差し出す。僕が苦手な食べ物を知っている。
「ねえルミ、ブーケもキャッチしたし、俺たち結婚する?」 冗談で言ってみた。 すかさず〝バカじゃないの″という言葉が返ってくると思った。 だけど違った。 ルミは大きな目に涙を溜めて、まっすぐに僕を見た。 「うん。いいよ」
ズッキューン。 僕の胸に、ハートの矢が刺さった。
http://rin-ohanasi.blog.so-net.ne.jp/2015-01-23
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Feb.19(Thu)05:30 | Trackback(0) | Comment(0) | りんのショートストーリーより | Admin
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