お日さまとお月さま
 
幸せな地球さんを見ました 
 


りんのショートストーリーより

ブーケの行方 [男と女ストーリー]

冬の空は雲ひとつなく澄み切っていた。
明子が投げたブーケは、群がる女性たちの手をすり抜けて、僕の腕の中にすっぽり収まった。
たちまち女性たちのブーイング。
「なんで男のおまえが取るんだよ」って。
僕はブーケを空にかざして「次に結婚するのは俺だ」と笑った。
明子は、思い切り呆れた顔をした。

二次会は辞退した。
でもそのまま帰りたくなかったので、女友達のルミを呼び出して一緒に飲むことにした。

「なにそれ」
僕が持っているブーケを見て、ルミは怪訝な顔をした。
「ブーケトスだよ。俺がキャッチした」
「はあ?バカじゃないの」
「うん。女性陣から非難ごうごう」
「当り前よ。ホントにバカじゃないの」

〝バカじゃないの″は、ルミの口癖だ。
「だいたいさ、元カノの結婚式に行くなんて、ホントにバカじゃないの」
「仕方ないだろう。新郎が友達なんだから」
「その友達に彼女取られて、よく祝福できるよね。バカじゃないの」
ルミはてきぱきと空いた皿を重ねたり、おしぼりでテーブルを拭いたりする。
僕のジョッキが空になる前に、さりげなくおかわりを注文する。

「でもさ、不思議と平気だったんだ」
「何が?」
「明子の花嫁姿見ても、誓いのキス見ても、意外と平気だった」
「ふうん」
「だけどやっぱりちょっと悔しくて、それでも花嫁を奪って逃げる度胸はなくて…」
「それで、せめてブーケだけでも奪ったの?」
「そういうこと」
「バカじゃないの」

ルミは要領よくサラダを取り分け、僕の好物を注文する。
「ちゃんと食べないと悪酔いするよ」
醤油が欲しいと思ったらさっと差し出す。僕が苦手な食べ物を知っている。

「ねえルミ、ブーケもキャッチしたし、俺たち結婚する?」
冗談で言ってみた。
すかさず〝バカじゃないの″という言葉が返ってくると思った。
だけど違った。
ルミは大きな目に涙を溜めて、まっすぐに僕を見た。
「うん。いいよ」

ズッキューン。
僕の胸に、ハートの矢が刺さった。

http://rin-ohanasi.blog.so-net.ne.jp/2015-01-23



2月19日(木)05:30 | トラックバック(0) | コメント(0) | りんのショートストーリーより | 管理

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