りんのショートストーリーより |
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| 誕生会 [男と女ストーリー]
中途採用で入社した会社には、誕生会というイベントがあった。 毎月25日に、その月が誕生日の社員を前に並べ、ケーキと記念品とおめでとうの拍手を贈る。 私(32)は4月生まれなので、入社早々誕生会を迎えた。
「なんか悪いなあ。入社したばかりでお祝いもらって…。もうおめでたい年でもないのに」 そう言って記念にもらったスイートピー柄のマグカップをかざしたら、同じ部の吉沢君(25)が、書類の間から顔を出した。 「そんなことないですよ。誕生日はいくつになってもお祝いしなきゃ。白井さん、誕生日は何日ですか?」 「25日よ」 「え?今日じゃないですか。じゃあ一緒にランチ行きましょう。ごちそうしますよ」 「7つも下の子に奢ってもらうなんて出来ないわよ」 「いいじゃないですか。この会社では僕の方が先輩ですよ。8ヶ月ですけどね」
キュンとした。吉沢君はとりわけイケメンじゃないけれど、センスがよくて背が高い。 男とランチするのも久しぶりだったし、こんなふうに祝ってもらえるのが嬉しかった。 「実は僕、誕生日を祝ってもらったことが一度もないんです」 「え?一度も?うそでしょう」 「僕の誕生日が親父の命日なんです。だから毎年誕生日は墓参り。ケーキにろうそくじゃなくて、仏壇に線香ですよ」 「まあ…、でも大人になってからは恋人に祝ってもらったりしたでしょう」 「それが、最初に付き合った彼女とは、誕生日の3日前に別れて、その次の彼女は誕生日の1ヶ月前に留学、あとは誕生日の1週間前に入院しちゃった彼女もいたな。とにかく、間が悪いんですよね。僕はどうも誕生日を祝ってもらえない運命みたいです」 「誕生日はいつなの?」 「5月25日です。ちょうど1か月後」 「あら、来月の誕生会の日ね」 「はい、僕この会社に入って、誕生会があるって聞いてすごく楽しみにしてるんです」
私は秘かに思った。吉沢君の誕生日を個人的に祝ってあげよう。 ランチじゃなくてディナーで、お酒を飲んでご馳走を食べてケーキにろうそくでお祝いしよう。 それから急に吉沢君を意識した。よく見れば、彼は実に好青年だった。 彼の仕事はデータ入力。地味で単調な仕事を文句も言わずに適確にこなす。 いつも遅くまで残業をしている。仕事熱心な彼は、たまに私の仕事も手伝ってくれた。 吉沢君は好んで残業しているように見えた。 父親がいないと言っていたから、彼の収入が家族を支えているのかもしれない。 7つも年下の彼に、私は夢中になった。まるで夢見る乙女のようだ。
そして5月の誕生会の日が来た。 吉沢君の誕生日。今日で26歳。年の差が縮まる。 私は彼のためにプレゼントを用意した。ブルーのネクタイ。気に入ってくれたらいいけど。 誕生会の後、彼をディナーに誘おう。きっと断らないような気がした。
ところが、誕生会に吉沢君はいなかった。 前に並んだ誕生者の中にも、並んで拍手する社員の中にも。 「吉沢君はどうしたの?5月生まれって言ってたけど」 隣の女子社員に尋ねた。 「白井さん、知らないんですか?吉沢さん、顧客データを他の会社に横流しして懲戒免職になったんですよ」 「え?いつ?」 「きのうです」
間が悪い…っていうか、バカな男だ。自業自得。 彼を思い続けた1ヶ月があほらしくて泣けてくる。 無駄になってしまったプレゼントのネクタイ。赤い包みを握りつぶしてやろうかと思ったら、たまにお菓子をくれる夏目という男(34)と目が合った。 そういえば夏目も、5月の誕生者の中にいたことを思い出した。 「あの、いつもお菓子をいただくので、これ、お礼です」 そう言って私は、夏目にネクタイを渡した。捨てるよりはマシだから、という理由だ。 それでも夏目は頬を赤らめて、すごく喜んだ。 しつこいくらいに「ありがとう」を繰り返し、照れて何度も頭を掻いた。 いい人だな…と素直に思った。
夏目は、「たまにお菓子をくれる人」から「彼氏」になって「夫」になった。 つまり、私が吉沢君を想っていた1ヶ月は、まんざら無駄でもなかったということだ。 人生ってこんなものかなって思いながら、私は今日、何度目かの誕生日を迎えた。
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今日は私の誕生日なので、誕生日に因んだ話を書きました。 誕生会をやってくれる会社で働いたことはありますが、これは実話じゃありませんよ.。 念のため^^ え?プレゼントですか?いやあ、おかまいなく。 そうですか。では遠慮なくいただきます。 これをぽちっとね^^ ↓ http://novel.blogmura.com/novel_shortshort/
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4月27日(日)07:46 | トラックバック(0) | コメント(0) | その他 | 管理
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