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2014年3月23日を表示

りんのショートストーリーより

日曜モンスター [コメディー]

あー、よく寝た。日曜日は目が覚めるまで寝ることにしてるの。
睡眠は大事でしょう。
えっ、電話? しかも家電。もう、朝っぱらから誰だよ。…って、もう昼だけどね。

もしも~し、え?はっ、お、お義母さん! おはようございます。あ、いえ、はい、おっしゃるとおり昼でございます。「こんにちは」でした。え?近くまで来てる?今から来る? マジで? あ、いや、本当にでございますか?はあ、あと10分…。あ、はい、お待ちしておりまする。

やばい。部屋掃除しなきゃ。その前に着替えなきゃ。えらいこっちゃ。

ピンポ~ン
「お義母さん、いらっしゃい。散らかってますけど、どうぞ」
「散らかってるのは先刻承知よ。慎二はいないの?」
「今日は仕事です。最近忙しいみたいで」
「朝子さん、お昼食べた?」
「いえ、昼どころか朝から何にも…」
「そんなことだろうと思って、お寿司買って来たわ」
「うわ、やばい、美味そう…でございますね」
「いいから早くお茶でも淹れてちょうだい」
「はい、喜んで~」

ああ、寿司久しぶり。マジで美味い。
「ところでお義母さん、急にどうしたんです?」
「電話があったのよ、慎二から。会社のお金を使いこんで、今日中に1千万返さないと警察に逮捕されるって泣きながら電話してきたの」
「それって、オレオレ詐欺じゃないですか。払っちゃったんですか?」
「まさか。私を誰だと思ってるの?怪しいと思ったからすぐに慎二に電話したわよ。そしたら…」
「そしたら?」
「女が出たわ」
口に運びかけたマグロが、ボテッと落ちた。

「慎二、浮気してるわよ」
「まさか、慎ちゃんに限って」
「甘いわね。今日だって私、慎二の会社に電話したのよ。慎二はいなかったわ」
落としたマグロが醤油の中で泳ぐ。もったいない…。
「さあ、行くわよ」
「い、行くってどこに行くんですか」
「相手の女の家よ」
「お義母さん、知ってるんですか?」
「興信所で調べさせたの。慎二は何度もその女の家に行ってるそうよ」
「あの…お義母さん」
「なに?」
「お寿司…食べ終わってから聞きたかったです」

女の家に着いた。チャイムを鳴らすと、あっさりと女が出てきた。
30代半ば、たいして美人でもない。若さも容姿もあたしの勝ち。
「慎二はいるかしら」
「慎二?ああ、村上君のこと。今ね、爆睡してる」
「ば、ばくすい?…ってことは、お義母さん…」
「情けない声出さないの。しっかりしなさい。どんなにグータラでもあなた本妻なんだから」
女が口もとに笑みを浮かべながら、なぜか急に自己紹介をした。
「私、椿姫マリリンっていうの」
「マリリン?お義母さん、どうしよう。あたし英語しゃべれない」
「バカね。この人さっきから日本語で話してるわよ。きっと日本生まれのハーフよ」
「純日本人だわ。ペンネームよ。知らないの?私、日本でいちばん売れてる漫画家なのよ」
「漫画家?」
「村上君の言うとおりだわ。奥さん、彼の仕事にまったく興味がないのね。この春から移動になって私の担当になったのよ。聞いてない?」
「あ、そういえば言ってたような気もするけど、あたし仕事仲間とラインやっててよく聞いてなかったかも」
「ちょっと朝子さん、何やってるのよ。ライン下りなんてしてる場合じゃないでしょ」
「いや…お義母さん、下ってませんから。だいたい慎ちゃんは声が小さいんですよ。いつもボソボソ話すから聞き取れないんですよ」
「まあ、慎二のせいにするつもり?どんな出来そこないでも嫁として認めてきたのに」
「お義母さん、さっきから、ちょいちょいひどくないですか?お義母さんがそんなふうだから慎ちゃんの声が小さいんですよ」
「あら、私の育て方が悪かったとでも?あなた、私の人生を否定するの?」
「いや…そんな大げさな」
「あの」とマリリンが割って入った。
「迎えに来たなら、村上君連れて帰ってくれる?原稿あげたばっかりで、眠いのは私の方なのよ。担当が先に寝るって、ありえないからね」

そのあと慎ちゃんを連れて3人でファミレスに行った。
お義母さんはずっと説教してて、慎ちゃんはずっと寝ていた。
だけど考えてみたら、結局はお義母さんの早とちりじゃん。
まったく、なんて日だろう。せっかくの休日が台無しだよ。

しばらくして、お義母さんが再びやって来た。
「ちょっと朝子さん、これ読んだ?」
「はい?少女マンガですか?お義母さん、いい年してハートは乙女なんですね」
「バカ言ってないで。これ読んでみなさい」
それは、例の椿姫マリリンの漫画。
夫の浮気を疑った妻と姑が、愛人宅に押し掛ける話。
「え?これって…まるであたしたち…」
「そうよ。あの女、私たちをネタに漫画を描いたのよ。さあ、マリリンのところに行くわよ」
「モデル料もらいに行くんですか?」
「違うわよ。文句を言ってやるの。だってこの漫画、朝子さんはきれいに描かれてるのに、私まるでオニババみたいじゃないの」
けっこう似てますけど…という言葉は、もちろん飲み込んだ。
今日も平穏な日曜は期待できない…とか思いながら、あたしはお義母さんが割と好きだったりする。

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りんさんのユーモアが好きです。



3月23日(日)05:12 | トラックバック(0) | コメント(0) | その他 | 管理


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